
楔形欠損(歯の根元がくさび状に欠損)

1. 楔形欠損の特徴と発生メカニズム
① 楔形欠損の特徴
楔形欠損は、歯の歯頸部(歯と歯ぐきの境目)に発生し、くさび状の形態を示すのが特徴です。主に以下のような特徴があります。
- 歯のエナメル質が局所的に削れ、象牙質が露出する
- 歯の根元にくさび状の欠損が見られる
- むし歯のような黒い変色は少ない(初期は白濁、進行すると黄褐色)
- 進行すると知覚過敏を引き起こす
- 重度になると、歯の破折や歯髄炎を伴うことがある
② 楔形欠損の発生メカニズム
楔形欠損は、外部からの物理的な力によって歯の根元のエナメル質が失われることが主な原因と考えられています。主に以下の3つのメカニズムが関与するとされています。
1. 咬合力によるストレス(Abfraction Theory)
歯ぎしりや食いしばり(ブラキシズム)による過剰な咬合力が歯頸部に集中し、微細な亀裂が生じます。これが長期間の負荷によってエナメル質を破壊し、楔形の欠損が形成される要因となります。
- 特に犬歯や小臼歯(咬合力が集中しやすい部位)に多く見られる
2. 過度なブラッシング圧(Toothbrush Abrasion)
硬すぎる歯ブラシや強すぎるブラッシング圧が、歯頸部のエナメル質を摩耗させることがあります。特に横磨き(スクラビング法)でゴシゴシと強く磨くと、象牙質が露出しやすくなります。
- 研磨剤が多く含まれる歯磨き粉の使用が、摩耗を助長することもある
3. 酸による歯の脱灰(Erosion)
酸性の食品(柑橘類・炭酸飲料・酢など)の過剰摂取により、エナメル質が軟化することがあります。さらに、胃食道逆流症(GERD)や摂食障害による胃酸逆流も、歯の脱灰を促進する要因となります。
2. 楔形欠損の主な症状
楔形欠損の進行に伴い、以下のような症状が現れます。
① 初期症状(軽度)
初期段階では、歯頸部にわずかな凹みができる程度で、見た目の変化は少なく、ほとんど痛みを感じません。ただし、歯磨き時にしみることがあり、軽度の知覚過敏が現れることもあります。
② 進行期(中等度)
進行すると、くさび状の欠損が深くなり、象牙質が露出します。冷たい飲み物や歯磨き時に強い痛みを感じることがあり、知覚過敏の症状が顕著になります。
3. 楔形欠損の診断方法
楔形欠損の診断は、視診・触診・歯科用拡大鏡やマイクロスコープを用いた精密検査によって行われます。
- 視診:歯頸部にくさび状の欠損があるか確認
- 探針診査:探針で欠損部の硬さをチェック(軟化していないか)
4. 楔形欠損の治療法
楔形欠損の進行度に応じた適切な治療法を選択することが重要です。
① 軽度の場合(経過観察・予防処置)
- フッ素塗布(セメント質の強化)
※くさび状欠損は、CEJ(セメントエナメル境)から始まります。
5. 楔形欠損の予防策
楔形欠損を防ぐためには、適切なブラッシング方法やナイトガードの使用、酸性食品の摂取制限が重要です。
- 適切なブラッシング方法(スクラビング法を避け、ペンシルグリップで軽く磨く)
6. まとめ ~ 楔形欠損は適切な治療と予防で管理できる
楔形欠損は、咬合ストレス・過度なブラッシング・酸の影響で発生します。進行すると知覚過敏・歯の破折・審美的問題を引き起こすため、適切な予防と早期治療が重要です。