被せ物の前に行っている精密な処置 ~ 再治療にならないために

院長より
*むし歯や根管治療後の歯に被せ物(クラウン)を装着する際、適切な前処置を行わなければ、数年以内に再治療が必要になるリスクが高まります。被せ物の精度が悪かったり、歯質や歯周組織の状態が不十分なまま装着すると、むし歯の再発(二次う蝕)、歯肉炎、歯根破折、噛み合わせの不調和などが生じる可能性があります。そこで、このページでは、「再治療を防ぐために、被せ物をする前に必要な処置」について、被せ物をする前に必要な前処置(歯質の強化・歯周組織の管理・根管治療の精密化など)のこと、被せ物の適合精度を高めるためのテクニック(マイクロスコープ・接着技術など)、適切な噛み合わせの調整と、長期的な安定性を確保する方法などについて詳しく解説します。

1. 被せ物の再治療が必要になる主な原因とは?

① 二次う蝕(被せ物の隙間からのむし歯)

被せ物の装着後、歯と被せ物の間に隙間があると、そこから細菌が侵入し、むし歯が再発(二次う蝕)することがあります。

主な原因

  • 不適合な被せ物(適合精度が低いと、細菌が侵入しやすくなる)
  • 不十分な接着処理(適切な接着技術が用いられないと、被せ物が浮きやすくなる)
  • 歯質の管理不足(残存歯質がもろく、被せ物の下で崩壊する)

② 歯根破折(歯の割れ)

被せ物をする際、歯の強度が十分でないと、歯の根(歯根)が割れる「歯根破折」が発生し、最悪の場合、抜歯が必要になります。

主な原因

  • 歯質が弱い状態で被せ物を装着(残存歯質の補強が不十分)
  • 咬合(噛み合わせ)のバランスが崩れている(過剰な力が加わる)
  • 歯根に亀裂が入っているのを見逃している(適切な診断が行われていない)

③ 歯周病の進行

被せ物を装着する前に歯ぐきの健康が不十分だと、歯周病が進行し、歯ぐきが下がり、被せ物の適合が悪くなることがあります。

主な原因

  • 歯肉の炎症を治療せずに被せ物を装着(歯周病が悪化する)
  • 歯ぐきの形態が整えられていない(クラウンの適合性が低下)

2. 再治療を防ぐために必要な前処置

① 根管治療の精密化(マイクロスコープ・ラバーダムの使用)

  • マイクロスコープを使用して、根管内の感染部位を完全に除去
  • ラバーダムを用いた防湿で、根管内の再感染を防ぐ
  • MTAセメントを活用し、根管の封鎖性を向上させる

② 歯質の補強(ファイバーコア vs. メタルコア)

根管治療後の歯は脆くなるため、適切な土台(コア)を選択することが重要です。

コアの種類 特徴 適応症例
ファイバーコア 歯のしなりに近い弾性を持ち、歯根破折リスクが低い 奥歯・前歯のクラウン修復
メタルコア 強度は高いが、硬すぎて歯根破折のリスクが高い 強度が必要な場合のみ

③ 歯周組織の健康管理

  • 被せ物を装着する前に、歯周病の有無を精査
  • 必要に応じて「クラウンレングスニング(歯冠長延長術)」を実施し、被せ物の適合性を向上
  • 歯周ポケットの深さを管理し、清掃しやすい状態に調整

④ 精密な接着処理(ラバーダムを使用)

  • ラバーダム防湿を徹底し、唾液の混入を防ぐ
  • 接着力の高いレジンセメントを使用し、微細な隙間をなくす
  • 接着前に歯質を適切に処理(エッチング・プライミング)

⑤ 噛み合わせ(咬合)の精密調整

  • 咬合圧を適切に分散させるための咬合調整
  • ナイトガード(マウスピース)の使用を推奨(特に歯ぎしり・食いしばりが強い患者)
  • 定期的な咬合チェックを実施し、長期的な安定性を確保

3. まとめ ~ 被せ物を長持ちさせるために

  • マイクロスコープを用いた精密根管治療で、再発を防ぐ
  • ファイバーコアを活用し、歯質の強度を確保
  • 歯周組織の健康を維持し、歯ぐきを整えた上で被せ物を装着
  • 適切な接着技術で、被せ物の適合精度を向上
  • 噛み合わせを細かく調整し、長期的な安定を確保

これらの処置を徹底することで、再治療のリスクを最小限に抑え、長く機能する被せ物を提供することが可能になります。