
歯周外科(フラップ手術)
はじめに ~ 重度の歯周病治療における外科的アプローチ
歯周病は、歯周ポケット内の細菌感染により歯を支える骨(歯槽骨)や歯周組織が破壊される疾患です。軽度の歯周病では、スケーリングやルートプレーニング(SRP)による非外科的治療が有効ですが、中等度から重度の歯周病では、より高度な治療が必要になります。
特に、歯周ポケットが深くなり、通常のクリーニングでは届かない感染組織が存在する場合、歯周外科(フラップ手術)が必要になります。
歯周外科(フラップ手術)の目的
- 深い歯周ポケットの感染源を徹底的に除去
- 破壊された歯槽骨の形態を整え、再生を促進
- 歯周組織を健康な状態に回復させ、歯の長期保存を可能にする
- 将来的な歯周病の再発リスクを最小限に抑える
フラップ手術は、歯周病の進行を食い止め、歯の保存を可能にする重要な治療法です。
歯周外科(フラップ手術)が必要なケース
非外科的治療では改善が難しい場合
軽度の歯周病であれば、歯石の除去(スケーリング)や、歯根の表面を滑らかにするルートプレーニング(SRP)によって改善が期待できます。しかし、以下のようなケースでは、外科的アプローチが必要になります。
- 歯周ポケットの深さが5mm以上に及ぶ
- 歯槽骨の吸収が進行し、歯の動揺が強くなっている
- SRPを実施しても歯周ポケットが改善しない
- 根分岐部病変(奥歯の根分岐部に細菌感染が及んでいる)
- 歯ぐきの腫れが慢性的に続き、膿が出る状態が改善しない
歯周病が進行すると、炎症が歯槽骨にまで及び、歯の支持力が低下します。そのため、適切なタイミングでフラップ手術を行うことが重要です。
歯周外科(フラップ手術)の手順
フラップ手術は、局所麻酔下で行われ、以下の手順で進められます。
術前の検査・準備
- 歯周ポケット検査(プロービング検査) → 炎症の範囲とポケットの深さを測定
- レントゲン・CT撮影 → 骨吸収の状態を詳細に評価
- 細菌検査(PCR検査) → 歯周病菌の種類を特定し、適切な治療方針を決定
フラップ手術の具体的な手順
- 局所麻酔を行い、歯ぐきを切開
- メスを用いて、歯ぐきを剥離し、感染部位を視認できる状態にする
- 歯根面・歯槽骨の清掃と感染組織の除去
- ルートプレーニングを行い、歯根面の細菌や歯石を除去
- 必要に応じて、歯槽骨の形態修正を実施
- 歯周組織の再生療法(オプション)
- エムドゲイン や GTR法(組織誘導再生法) を用いた歯周組織再生療法を併用
- 縫合と治癒の促進
- 手術後、歯ぐきを適切な位置に戻し、細い縫合糸で縫合
- 歯ぐきが安定するように、保護用のパック(歯周包帯)を装着
- 術後のケアと経過観察
- 術後1週間程度で抜糸を行い、治癒を確認
- 炎症の改善を促すため、抗菌薬の服用や抗菌性マウスウォッシュの使用を指導
手術後の適切なメインテナンスが、歯周病の再発防止に不可欠です。
フラップ手術後の注意点とリスク
術後の注意点
- 手術当日は、激しい運動や飲酒を避ける
- 手術部位を過度に刺激しない(硬い食べ物や熱い食べ物に注意)
- 医師の指示に従い、抗生剤や鎮痛剤を適切に服用する
- 定期的な歯科受診とメインテナンスを継続する
考えられるリスクと副作用
- 術後の痛み・腫れ・出血(通常は数日で改善)
- 一時的な知覚過敏の発生(歯根が露出するため、一時的にしみることがある)
- 歯ぐきの退縮による審美的な影響(歯が長く見えることがある)
- まれに傷の治りが遅くなるケースがある
フラップ手術後のメインテナンスの重要性
フラップ手術後も、定期的なメインテナンスを継続することが最も重要です。
- 定期的な歯周ポケット検査(3~6ヶ月ごと)
- 専門的なクリーニング(GBTメインテナンス)
- 適切なセルフケアの実践(正しい歯磨き・フロスの使用)
まとめ ~ フラップ手術で歯を長く守るために
- フラップ手術は、中等度から重度の歯周病に対する有効な治療法
- 歯周ポケットの奥深くにある感染組織を除去し、歯槽骨の回復を促す
- 術後のメインテナンスが、歯周病の再発予防に不可欠
- 歯科医院での定期管理とセルフケアを徹底することで、長期的な歯の保存が可能
歯周病の進行を止め、歯を守るために、適切な治療と継続的なケアを受けることが大切です。