
なぜ感染のある歯の部分の骨が失われるのか(骨吸収)
院長より

1. 感染による顎骨の破壊プロセス
骨は「生きた組織」であり、常に代謝を繰り返している
顎骨(歯槽骨)は静的な構造ではなく、破骨細胞と骨芽細胞の働きによって常に新陳代謝が行われています。
- 破骨細胞(Osteoclasts):骨を吸収する細胞
- 骨芽細胞(Osteoblasts):骨を作る細胞
正常な状態では、このバランスが取れていますが、感染が起こると破骨細胞の活性が過剰になり、骨が溶かされていくのです。
感染の種類と顎骨への影響
顎の骨が吸収される原因となる代表的な歯性感染症には、以下のようなものがあります。
疾患名 | 感染の主な原因 | 顎骨への影響 |
---|---|---|
歯周病(歯槽骨の破壊) | プラーク内の歯周病菌(P. gingivalisなど) | 歯周ポケットが深くなり、歯を支える骨が溶ける |
根尖性歯周炎(根の先の感染) | 根管内の細菌感染 | 感染が広がり、根の周囲の骨が吸収される |
歯根破折(感染による炎症) | 歯の破折部分から細菌が侵入 | 破折部周囲の骨が溶け、抜歯に至ることも |
インプラント周囲炎(人工歯根の感染) | インプラント周囲の細菌感染 | 骨の吸収が進み、最悪の場合インプラントが脱落 |
「骨吸収は、細菌感染に対する体の防御反応の一環として起こる」
2. 骨吸収を引き起こす細菌と炎症メカニズム
主要な歯周病菌とその影響
- Porphyromonas gingivalis(P. gingivalis) → 破骨細胞を活性化し、骨吸収を促進
- Treponema denticola(T. denticola) → 歯周ポケットを深くし、骨破壊を助長
- Aggregatibacter actinomycetemcomitans(A.a) → 強力な毒素を分泌し、骨吸収を加速
炎症が骨吸収を引き起こす仕組み
細菌感染により、免疫細胞(マクロファージ、好中球)が活性化し、炎症性サイトカイン(IL-17、TNF-α、RANKL)が大量に放出されます。
このサイトカインが破骨細胞を活性化し、骨の吸収が加速するのです。
- IL-17(インターロイキン-17) → RANKL発現させ、破骨細胞活性化
- TNF-α(腫瘍壊死因子α) → 炎症を増強し、骨吸収を加速
- RANKL(破骨細胞活性化因子) → 破骨細胞の形成を促す
「炎症性サイトカインが骨吸収の引き金となる」
Th17細胞がIL-6の刺激を受け、IL-17を分泌し、RANKLを発現させ、破骨細胞を活性化させます。
Th17細胞に抑制的に働くTregも、IL-6によりTh17細胞へと変化します。
こうなると炎症に対して抑制的に働く細胞が激減するので炎症が強くなり、骨吸収が進みます。
これを止めるために歯周治療ではブラッシングやSRP(スケーリング・ルートプレーニング)で菌量を減少させ、消炎することで骨吸収を止めます。
3. 骨が失われる進行速度と、その影響
骨吸収の進行速度
感染の種類 | 骨吸収の進行速度(年間) |
---|---|
軽度の歯周病 | 0.1~0.3mm/年 |
中等度の歯周病 | 0.5~1.0mm/年 |
重度の歯周病 | 1.0mm以上/年 |
急性根尖病変 | 2~5mmの骨吸収が短期間で進行することも |
骨が失われることによる影響
- 歯の動揺(グラつき) → 最終的に抜歯が必要になることも
- 咬合(噛み合わせ)の乱れ → 顎関節症や全身の不調を引き起こす
- インプラント治療が困難になる(骨量不足)
「骨吸収が進行すると、治療の選択肢が限られてしまう」
4. 骨吸収を食い止めるための最新治療法
抗菌療法(歯周病菌のコントロール)
- 抗菌薬(アジスロマイシン)を併用し、細菌の活動を抑制
歯周組織再生療法(失われた骨を再生)
- エムドゲイン(Emdogain):歯周組織の再生を促す
- GTR法(組織誘導再生法):メンブレンを用いた骨再生
- 骨移植術(自家骨・人工骨):吸収した部分に骨を補填
根管治療による根尖病変のコントロール
- マイクロスコープを用いた精密根管治療で、感染源を徹底除去
- MTAセメントを使用し、再感染のリスクを下げる
咬合調整による負担の軽減
- 歯ぎしり・食いしばり対策としてナイトガードを装着
「感染源を除去しつつ、骨の再生を促すことが重要」
5. まとめ ~ 顎骨を守るためにできること
- 感染が骨吸収を引き起こすメカニズムを理解し、早期治療を行う
- 炎症を抑えることで、破骨細胞の活性化を防ぐことができる
- 骨吸収が進んだ場合でも、再生療法を活用すれば骨が回復する可能性がある
- 正確な診断(CT・マイクロスコープ)と適切な治療が、骨の保存に不可欠
「感染が進行する前に、適切な治療を受けることが、顎骨を守る最善の方法です!」