なぜアメリカと比べて日本の保険治療では根管治療の再治療率が高いのか

院長より
*根管治療(歯の神経治療)は、むし歯が歯髄(神経)に達した場合に行われる治療であり、歯を残すために極めて重要な処置です。しかし、日本では保険治療で行われる根管治療の再治療率が高く、治療後に痛みや感染が再発し、抜歯へと進むケースが多いのが現状です。
一方、アメリカでは、専門医(Endodontist)が行う精密な根管治療の成功率が高く、一度の治療で長期的に歯を維持できるケースが多いと報告されています。
この違いは、治療精度・設備・診療報酬制度の違いによるものです。このページでは、日本の保険診療とアメリカの根管治療の違いを専門的な視点から解説し、なぜ日本の保険治療では再治療率が高くなるのかを詳しく説明します。

1. 日本とアメリカの根管治療の成功率の違い

① 日本の保険診療とアメリカの根管治療の成功率

一般的な成功率 再治療率
日本(保険治療) 約50~60% 約40~50%
アメリカ(専門医治療) 約85~95% 約5~15%

日本の保険治療では、約半数のケースで再治療が必要になり、最終的に抜歯となることが多いのに対し、アメリカでは成功率が非常に高く、再治療の必要性が低いことがわかります。

2. 日本の根管治療の再治療率が高い理由

① 診療報酬制度の違い(低い治療費と時間的制約)

日本の保険治療の最大の問題点は、診療報酬が低すぎることです。

根管治療1回あたりの診療報酬(患者負担を除いた額)
  • 日本(保険治療):約5,000円~10,000円
  • アメリカ(専門医):約150,000円~300,000円

アメリカでは、根管治療を専門とする「Endodontist(歯内療法専門医)」が、最新の設備を駆使し、1回の治療に1時間以上かけて精密な処置を行うのが一般的です。

一方、日本の保険治療では、1本の歯の治療にかけられる時間が15~30分程度と短く、必要な手技を十分に行うことができないのが現状です。その結果、感染源の取り残しや封鎖不良が生じ、再治療のリスクが高まります。

② マイクロスコープの使用率の違い

マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)は、根管内を拡大して観察し、細かい部分まで確実に治療するために必須の設備ですが、日本の保険治療ではほとんど使用されていません。

マイクロスコープ使用率
日本(保険治療) 約10~20%
アメリカ(専門医) 100%

③ ラバーダム防湿の使用率の違い

ラバーダム防湿とは、治療する歯をゴムのシートで覆い、唾液や細菌の侵入を防ぐ処置です。

ラバーダム使用率
日本(保険治療) 約10~30%
アメリカ(専門医) 100%

④ 使用する器具・材料の違い

根管拡大装置(Ni-Tiファイル)
  • アメリカ(専門医):ニッケルチタン(Ni-Ti)ファイルを使用し、根管内を均一に拡大
  • 日本(保険治療):ステンレススチール製の手動ファイルが主流(根管内の形態に適合しにくい)
根管充填材(MTAセメントの使用)
  • アメリカ(専門医):MTA(生体親和性の高い封鎖材料)を使用し、確実に封鎖
  • 日本(保険治療):ガッタパーチャとシーラー(封鎖性が劣る)

3. 日本の根管治療の成功率を上げるには?

① 自費診療で精密根管治療を選択

精密根管治療の特徴
  • マイクロスコープで拡大視野下での治療
  • ラバーダム防湿の徹底
  • Ni-TiファイルとMTAセメントを使用
  • CT撮影による精密診断

② 早めに治療を受ける

むし歯が進行してから治療を受けると、根管治療が複雑化し、成功率が低下します。違和感を感じた時点で、早期に治療を受けることが重要です。

4. まとめ ~ 日本の保険治療では根管治療の限界がある

日本の保険治療では、診療報酬の低さ・設備投資の不足・時間的制約が原因で、根管治療の成功率が低く、再治療率が高いのが現状です。

抜歯を避け、歯を長く残したい場合は、精密根管治療を選択することが最良の方法です。