
病巣感染 / 病巣疾患 について ~ 口腔内の慢性感染と全身への影響
院長より

1. 病巣感染(Focal Infection)のメカニズム
① 病巣感染の基本的な仕組み
病巣感染とは、局所的な慢性感染が全身の疾患を引き起こす現象であり、特に免疫力が低下している場合や、長期間にわたる低レベルの炎症が持続する場合に発生しやすいとされています。
- 口腔内の感染源から細菌が血流に乗って全身に拡散
- 細菌の産生する毒素(内毒素・外毒素)が免疫系を刺激し、全身の炎症を引き起こす
- 細菌やその成分が臓器に蓄積し、組織損傷や自己免疫反応を誘発
この結果、慢性炎症が続き、糖尿病・関節リウマチ・動脈硬化などの全身疾患の悪化につながると考えられています。
2. 口腔内の病巣感染が引き起こす全身疾患
① 感染性心内膜炎(IE)
感染性心内膜炎とは、口腔内の細菌(特にストレプトコッカス属)が血流を介して心臓の弁膜に感染し、炎症を引き起こす疾患です。
- 口腔内の慢性感染(根尖病変、歯周病、抜歯後の感染)が原因となることが多い
- 特に、心疾患のある患者では、口腔内の感染が直接的なリスクとなる
- 歯科治療前に適切な抗菌薬の予防投与(抗菌薬プロフィラキシス)が推奨される場合がある
② 糖尿病の悪化
糖尿病患者では、歯周病が進行しやすく、逆に歯周病が血糖値のコントロールを悪化させることが知られています。
- 歯周病の慢性炎症により、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)が増加し、インスリン抵抗性を助長
- 糖尿病患者は歯周病の治癒が遅く、悪化しやすい
- 歯周病治療を行うことで、血糖コントロール(HbA1c)が改善することが報告されている
③ 関節リウマチ(RA)
- 歯周病菌(Porphyromonas gingivalis)が自己免疫反応を引き起こし、関節の炎症を助長
- 歯周病治療を行うことで、リウマチの症状が軽減するケースが報告されている
- リウマチ患者は歯周病が重症化しやすく、注意が必要
④ 腎炎・IgA腎症
- 歯周病や慢性根尖病変からの細菌が血流を介して腎臓に影響を与える
- IgA腎症の患者では、歯周病のリスクが高いことが報告されている
- 歯周病治療によって腎機能の悪化を抑えられる可能性がある
3. 病巣感染を防ぐための歯科治療
① 精密根管治療で感染を完全に除去
- マイクロスコープを用いた精密根管治療
- ラバーダム防湿を徹底し、細菌感染を防ぐ
- MTAセメントによる確実な封鎖
② 歯周病の徹底治療
- 歯周ポケットの徹底的な清掃(SRP・歯周外科治療)
- 歯周病菌を減少させるための歯周内科治療(抗菌療法)
- 定期的なメンテナンスと口腔衛生管理
③ 予防歯科の重要性
- 3~6ヶ月ごとの定期検診とクリーニング
- 初期の歯周病やむし歯を早期発見・早期治療
- リスクの高い患者(糖尿病・心疾患・リウマチなど)には特に予防を徹底
4. まとめ ~ 口腔内の健康が全身の健康を守る
- 病巣感染は、口腔内の慢性感染が全身疾患を引き起こすリスクを持つ
- 特に、心疾患、糖尿病、リウマチ、腎疾患、皮膚疾患などと関連が深い
- 精密な根管治療、歯周病治療、予防歯科が病巣感染の予防に不可欠
「慢性的な歯の違和感がある」「根管治療後の痛みが続く」などの症状がある場合は、病巣感染の可能性を考慮し、専門的な診断と治療を受けることをおすすめします。