歯と健康寿命 ~ 残存歯数と転倒、アルツハイマー、寝たきりなどの関係

院長より
*「健康寿命を延ばすために必要なことは?」この問いに対し、多くの人は「適度な運動」「バランスの良い食事」「十分な睡眠」などを思い浮かべるでしょう。しかし、近年の研究で、「歯の健康」が健康寿命の延伸に深く関与していることが明らかになっています。歯の本数(残存歯数)が少ないと、全身の健康リスクが増加し、転倒リスクの上昇、アルツハイマー病(認知症)の進行、さらには寝たきりのリスクが高まることが、国内外の多くの研究で示されています。このページでは、残存歯数と健康寿命の関係を科学的に分析し、歯を守ることがいかに重要かを解説します。

1. 残存歯数と健康寿命の関係 ~ なぜ歯が重要なのか?

① 残存歯数と健康寿命の統計データ

残存歯数(80歳時点) 健康寿命の平均(自立した生活)
20本以上 80歳以上
10~19本 75~78歳
0~9本(総入れ歯) 70歳以下
  • 20本以上の歯が残っている高齢者は、健康寿命が長く、自立した生活を送る可能性が高い
  • 逆に、残存歯数が少ないと、認知症リスクや転倒リスクが増加し、介護が必要になる可能性が高まる

2. 残存歯数と転倒リスクの関係

① 咀嚼機能の低下がバランス感覚を悪化

  • 顎の筋力低下 → 頭部の安定性が低下し、転倒しやすくなる
  • 咀嚼による血流増加の減少 → 脳の活性化が低下し、運動機能が衰える
  • 筋肉量の減少 → 歩行能力が低下し、つまずきやすくなる

② 義歯(入れ歯)を使っている人の転倒リスク

  • 入れ歯が不適合だと、噛む機能が低下し、脳への刺激が減少
  • 噛む力が弱いと、下半身の筋力低下が進み、バランスが崩れやすくなる

研究データ

ある日本の研究では、「残存歯数が20本以上の高齢者と、0~9本の高齢者を比較すると、転倒リスクは約3倍の差がある」と報告されています。

3. 残存歯数とアルツハイマー(認知症)リスクの関係

① 咀嚼が脳を刺激し、認知症を予防する

  • 咀嚼が少ないと、脳への血流供給が低下し、神経細胞が衰える
  • 噛む刺激が減ると、脳内の神経伝達物質(ドーパミン・アセチルコリン)の分泌が減少
  • 結果として、記憶力低下や認知症のリスクが増加

② 歯周病菌がアルツハイマー病を引き起こす可能性

  • 歯周病菌が血流を介して脳に侵入し、神経細胞を攻撃する
  • アミロイドβ(アルツハイマー病の原因物質)の蓄積を促進する
  • 歯周病が進行している高齢者は、認知症のリスクが約1.5倍高い

4. 残存歯数と寝たきりリスクの関係

① 歯の喪失が低栄養・フレイルを引き起こす

  • 歯が少ないと、咀嚼が困難になり、食事のバリエーションが減少
  • タンパク質・ビタミン・ミネラルの摂取が不足し、低栄養状態になる
  • 筋肉量が減少し、寝たきりへと進行するリスクが高まる

研究データ

「残存歯数が0~9本の高齢者は、20本以上ある高齢者と比較して、要介護状態になるリスクが2倍以上」というデータが報告されています。

5. 健康寿命を延ばすために ~ 残存歯数を維持する方法

① 定期的な歯科メインテナンス

  • 3~6ヶ月ごとの歯科検診を受診
  • 歯石除去・バイオフィルムの管理(GBTメインテナンス)

② 歯周病の早期治療

  • 歯周ポケットの管理と定期的なクリーニング
  • エムドゲイン・リグロスなどの再生療法による骨吸収の抑制

③ 義歯・インプラントの適切な管理

  • 義歯(入れ歯)の定期的な調整
  • インプラントのメインテナンス(インプラント周囲炎の予防)

6. まとめ ~ 歯の健康が長寿のカギ

  • 残存歯数が多いほど、転倒・認知症・寝たきりリスクが低下
  • 咀嚼が脳や全身の健康に影響を与える
  • 定期的な歯科メインテナンスと適切な口腔ケアが健康寿命を延ばす

「健康寿命を延ばしたい」と考えるなら、今日から歯を大切にしましょう。